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隙間の地形_川のはなし
in-between_Story of a River
2021


 

暗いからきこえないんだよとAが言う

 

ね、とKが言う

ね、とK の息子のA がいう

最初のAとあとのAは別のA

 

最初のAは弦を揺らす たくさん道具を持っていて

だしたりいれたりいれたりだしたり

こっちからあっちあっちからこっち

 

こっちからあっちへいくとあっちはこっちになって

 

Hは、

水に流されてしまったふるさとの話しをした

 

そのまちの

もっと北にある大きな川の河口で彼は、

また奇跡をみた、と言う

 

雪のなか

T団地行きのバスがくる

 

Hが奇跡を見たと言う場所に

黄色をかきわけてすすむ

かき分けているのは、あしか、よしか

 

やわらかい地面

 

赤いビンのめじるしが

たくさんありすぎてどこに向かえばよいやら

 

すこしあがって

すこしさがる

 

強い風に

よこずれする

 

切れ目からは海

 

 

 

ブルーの上着はこの川にある

Kは、夢で見た私のブルーの上着の話をする

私は川に沈み、上着だけが彼女の手に残った

 

最初のKとあとのKは別のK

 

大きな川のこっちは雪であっち晴れて

私はここの水に沈み

黒い砂の川岸に

ブルーの上着は残される

 

赤いピンは蝶をとめる

そこには影があるけどここにはなくて

 

Pの妻はいつも毛糸を編んでいる

手元を見ずに編みながら

もっとずっと北にある島の話をする

蝶のような形の島

 

Mはとうとう

その島には行けなかった

 

2度目の冬も

T団地いきのバスは寒くて

 

AでもKでもHでもPでもMでもない初老の男性が

川岸のベンチにすわって

こんにちは、という

彼の話は聞かなかった

あっちからとこっちからの汽水が凍る

 

もっとやわらかい地面に

ゆっくりと沈む途中で

黒いリングを落としてきた

 

最初のAは弦をゆらす

聞き手のいない音は、焦点を結ばない

ばらばらの複眼

 

大きな川を渡る橋の横の

このみちは通らなかったほうの道

 

Mのおじさんは部屋いっぱいに青い上着を持っていて

青い上着しか着なかった

あっちをきたりこっちをきたりして見せてくれる

 

最初のMとあとのMは別のM

これはあとのMが話してくれたこと

 

あとのMは大きな魚を抱く

雷のように割れて広がる

毛織物の名前の川

毛の糸はあっちからこっちからはすかいに

 

たくさんの羊が草を食べて

たくさんの鹿が草を食べて

土がくずれて

 

川は溢れるのだとIは言う

 

Iはすりガラスの向こうにいて

鼻の頭がつめたいといった

 

Iはいつも曇った昼間 時々晴れる

こちらは夜 

度々強い風が吹く

 

 

あったことのない私達の会話は、犬が散歩するみたいだとIが言う

そうだね

あっちにいったり、こっちにいったり

匂いを嗅いだり

 

実際匂いはしないんだけど

気配もなくて

Iが話すリズムだけを少し覚える

 

 

 

MとTとMは、おおきな川を渡る橋のよこの

この道にはいかなかった

明るい夜に橋を渡ってホテルに向かう

最初のMとつぎのMは別のM

最初のMはゆっくりと二人のあとを歩いて

大きく二つに別れる川の先を眺めた

あとのMが何かを言うけど水の音がおおきくて

何を言っているのかわからない

 

 

 

これはわたしの物語ではなくあなた私の物語でもない

 

 

最初のMは2番目のMが使い古した黒い布袋を持って

Pが描いたという青い三角をみている

Pはもういないから

Pが描いたという三角をPではない誰かが描いたのだけど

 

袋の絵柄はかすれている

 

黒い袋はひどく重い

中は暗くてきっと水がいっぱい

大きな魚も泳ぐ

最初のMの携帯は水浸し

​つづく

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